2017年 11月 01日
繰り返し味わえる作品とは |
映画にしろ小説にしろ音楽にしろ、僕は基本的にそういった芸術作品を繰り返し味わうタイプの人間だ。
繰り返し味わうことができる作品というのは、まず十分に“磨かれて”いないといけない。そうでないと雑味が気になってしまうからだ。
でも、洗練されてさえいればいいのかというと、もちろんそうではない。適度な緩みというか、歪みというか奇妙さというか、そういったある種の“不完全さ”がないと人は何かに強く惹きつけられない。
もし人間の顔が完全に左右対称であったら、そこに自然な魅力を見出すことが難しいのと一緒だ。
僕が惹かれる芸術作品というのは、基本的には「十分に磨かれながらも、何らかの不完全さを持つもの」と表現できると思う。そのバランスが難しいのではないかと。
逆にいえば、非の打ち所がないにもかかわらず、人をまったく惹きつけないという作品も世の中には存在する。ここで具体例をあげることは控えるが、磨きのプロセスで大事なものまで削り落としてしまった(もしくは磨きにばかり気をとられた)結果なのだろうと思っている。
僕自身、文章を書いたり音楽を演奏したりする身として、以前は磨く“技術的な”工程ばかりを意識していた。でも、ある程度のところまで磨いてしまうと、それだけでは先がないことに気づく。「そもそも自分はどうしてこんなことをしているのか」という問いにさえ、答えられなくなっているのだ。
もちろん、こういうところに書き込んでいる文章は、それほど磨いてはいない。書きながら考えている内容を、できるだけ正確に残しておこうとは思うが、文章自体の磨き込み(すなわち書き直し)にはそれほど時間をかけない。
そうやってろくに書き直しもしていない文章を読み返してみると、自分なりに磨ききった文章だったら失われている“勢い”というか“流れ”みたいなものが感じられることがある(自分のための文章を書いたことがある人なら、たぶんわかる感覚ではないかと思う)。
とはいえそれも、どこかで一度とことん書き直してみて、磨ききってみないことには気づかないことかもしれない。あるポイントまできたときに、「ちょっと待て、これは磨きすぎだ」と思う。そのとき初めて、自分にとってのちょうどいいバランスがわかるものかもしれない。
作品においてもう一つ大切なのは、そこにつくり手が“事前に意図していなかったもの”を盛り込むことだと思う。文章にしても音楽にしても映像にしても、自分の頭のなかにあるものを具現化するだけでは、繰り返し味わえるような作品は生まれない。
そもそも文章を書くという行為は、自分の頭のなかにある事象を言葉に置き換えるだけなのだろうか。
あるいは音楽を演奏する行為というのは、自分の理想の音の流れを現実の空間でただなぞるだけなのか。
僕はそうは思わない。
自分の頭のなかといういわば“真空”の環境で生まれたアイディアを、現実の空間に吐き出してみると、おそらく真空状態では予測できなかったリアクションが起こる。そのとき、真空しか想定していなかったアイディアは、現実空間のなかで、当初の予定からの変更を求められる。
もしその要求を拒否し、当初のアイディアそのままの形に固執すれば、自然な流れや必然性は失われる。その不自然さが予測しなかった魅力となる場合はあるだろうけれども。
ところが、自分の頭のなかだけで生みだされたアイディアを現実の空間に放り出したとき、新しい環境に合わせてアイディアそのものを流動的に変化させていけば、できあがったものは当初の予測とは大きく異なるものになる。
これこそが創造的なプロセスの本質なのではないか、というのが僕の仮説だ。
その非現実と現実とのすり合わせ作業のなかで、作品にどれだけのインスピレーションを注ぎ込むことができるのか。 ―― それが、創造においては大事なのではないか。
見方によっては「行き当たりばったり」とも思えるかもしれない。自分が「コントロールしている」という実感も持てないだろう。
でも、つくり手が事前に意図していた通りのものしかそこに生まれ得ないのだとしたら、そもそも創造活動になんて、いったい何の意味があるだろう。ただの自己顕示に過ぎないということにはならないだろうか。
現に、スタンリー・キューブリックにしてもチャーリー・パーカーにしてもハルキ・ムラカミにしても、傍からは行き当たりばったりとも思える方法論で、すぐれた作品を生みだしている。それはおそらく、自分の無意識なり潜在意識を使って創造しているということにほかならない。
もし自分の力で何か意味のあるものを創造したいのであれば、自分自身が驚けないものなんて面白くない。
「どうして自分がこんなものを創ってしまったのかわからない」というような形でしか、ほんとうに創造的なものは生まれないと僕は思う。
by tanzeallein
| 2017-11-01 19:27
| 芸術
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